妻と出会ったのはマニラの中心地から少し外れた通りだった。
暑さと疲れで木陰で休んでいた所に、仕事を終えて家に帰ろうとしているフィリピーナが通りかかった。
私は海外に行くときには現地の人達と同水準の服を着る事にしている。
無駄に小奇麗な格好をしていてはリスクが増えるからだ。
公園で休んでいる私はボロボロのTシャツに短パン、そしてビーチサンダルというスタイルで、傍から見ればお金のない若いアジア人だろう。
そのフィリピーナは私の体調が悪いのではないかと心配して、ビクビクしながら話しかけてきた。
今思えば小心者のピナちゃんには勇気が必要だっただろう。
ピ「だ・・大丈夫ですか?」
私「?」
ピ「どこか痛いのですか?」
私「?」
ピ「(゚д゚;)!! お腹がすいてるんですね!ちょっと待ってください」
フィリピーナはカバン代わりに使っていると思われる大き目のビニール袋をゴソゴソと探りはじめ、シワクチャの紙に包まれたハンバーガーを出してきた。
ピ「ボスにもらいました。半分食べてもいいですよ。全部あげたいけど残り半分はママにあげたいです」
私(衛生的に心配でいらないなんて言えない…)
私の返事を待たずに半分にハンバーガーをちぎり、少し警戒しながら分け与えてくれた。
ハンバーガーの冷たさから、製造されてから時間が経過している事が容易に想像できる。
炎天下の中でビニール袋に保管されていたハンバーガー…
食べればお腹を壊すだろう。
しかしこのフィリピーナの善意を踏みにじるのは日本人としてどうなのだろうか…
その前にこの女は誰なんだ?
薬でも入っていて身包み剥がされるのではないか?
様々な考えが錯綜する中、意を決して口に運ぶと。
・・・・・・・・・・・
・・・・・ちょっと臭い・゚・(ノД`;)・゚・
私が食べるのをニコニコしながら見ているフィリピーナに「ありがとう。美味しかった。」と伝えると、満面の笑みを浮かべながら去って行った。
お礼をするべきだったのだろうが、私は一刻も早くハンバーガーを吐き出したかったのでホテルへと急ぎ、吐いてスッキリした後で先ほどのフィリピーナの事を考えていた。
穴の空いたTシャツに、カバン代わりのビニール袋。
冷たいハンバーガーを半分持って帰り、ママにあげると言っていた事からも彼女の生活レベルが想像できる。
そんな中、見知らぬアジア人に貴重?な食べ物を分け与えるとは・・・
なんて良い子なんだ!
翌日の同時刻、私はフィリピーナを待っていた。
数十分待っていると、昨日のフィリピーナが通りかかり話しかけてきた。
ピ「…家、無いですか(´・ω・`)?」
家は無いけれど、ホテル暮らしだから心配ない事を説明し、ハンバーガーのお礼にと、日本から持ってきたチロルチョコを渡した。
ピ「何ですかこれ?」
私「日本の有名なチョコレートだよ。昨日のお礼だから食べて。」
ピ「持って帰って、ママとファミリーにあげてもいいですか?」
私「ホテルに帰ればまだあるから食べて!明日また持ってくるから」
ピ「ほんとですか!じゃあ食べます。」
ゴソゴソ、パクリ
(゚Д゚≡゚д゚)ハッラー! オイシー!! オイシー!!
一頻り美味しいと騒いだ後、固まったかと思ったら泣き始めました。
ピ「ありがとうございます。こんなに美味しいチョコレートはじめて食べました(ノд・。) 」
チロルチョコでこんなに喜ばれるとは思ってもいなかった私は、このフィリピーナの優しく純粋な心と貧しい生活を考えると複雑な気持ちだった。
また明日ここで待ってるからと約束をし、二人は徐々に距離を縮めて行く事になる。
フィリピーナに騙された日本人を数名知っていた事から、それまで私はフィリピン人女性に対して警戒する気持ちが強く、深い関係になる事もあったが常に疑い決して恋愛の対象では無かった。
しかし、この貧しいフィリピーナには今まで出会ったフィリピーナとは違う何かを感じていた。
出会った日の話をすると「太郎は貧乏そうに見えましたよ(´∀`)プフーッ」と言われる(涙)