本日はピナちゃんと私がレストランで泣いてしまった少し悲しい話をしたいと思う。
みなとみらいの雰囲気が好きなピナちゃんと時々赤レンガ倉庫へデートに出かける。
今の季節は赤レンガ倉庫と埠頭の間に広がる広場のベンチで、何も考えずぼーっと過ごすのは至福の時間だ。
ベンチの横に灰皿が設置してあるので喫煙所へ行く必要もなく最高の環境である。
ベンチに腰掛けて周囲のイチャイチャしているカップルを眺めながら、私達は色々な話をして広場で時間を過ごす。
その後、決まって行く場所が横浜中華街である。
赤レンガ倉庫からは船が出ていて横浜中華街の近くにある山下公園まで乗っていけるので、二人のデートの定番コースとなっているのだ。
食べ放題が好きなピナちゃんにとって中華街は魅力的な街で、多くの飲食店が食べ放題のシステムを導入していて、その日の気分で店を決めては中華街を満喫している。
これは去年の冬の話だが、いつものようにフラリと食べ放題の看板に吸い寄せられ入ったのが中華料理店の老舗『大珍樓』だった。
たわいない話をしながらテーブルにずらりと並んだ料理を食べていると、点心を食べたとたん突然ピナちゃんの手が止まりボロボロと涙をこぼしはじめた。
ピナちゃんは感動しても泣くので、美味しかったのかカラシを付けすぎたのだろうと気に留めなかったのだが、次第に声を押し殺してはいるが号泣に近くなっていたので心配になり声をかけた。
私「どうしたの?点心に問題があったの?」
ピ「ゴメンナサイ。チョト待ってクダサイ(ノд・。) 」
しばらく待っていると徐々に落ち着きを取り戻してきたピナちゃんが理由を話してくれた。
ピ「これ食べたら、死んだママを思い出しマシタ(´;ω;`)」
ピナちゃんには母親が二人いる。生みの母と育ての母である。
幼い頃フィリピンでの生活に困窮していた生みの母は、ピナちゃんを育てる事が出来なくなり苦渋の決断だったと思うがピナちゃんを捨てた。
ピナちゃんは施設に入るか、ストリートチルドレンとして生きていかなければならなくなったのだが、不憫に思った一人の女性がピナちゃんを拾ってくれた事で最悪の事態は避ける事ができた。
その女性は理由があり子供を生むことが出来なかったので、ピナちゃんに自身の事をママと呼ばせ、自分の娘として育てる事にしたのである。
こうして新しい母親ができたピナちゃんであったが、育ての母もスラム暮らしであった為に生活は相変わらず苦しいものであった。
しかし育ての母は懸命に働いてピナちゃんを育ててくれた。
そればかりではなくピナちゃんの将来を考えて、貧乏で学校へは行けなかったが、空いた時間を見つけては熱心に勉強を教えてくれた。
貧乏だったが惜しみなく注がれる母親の愛情のお陰でピナちゃんは幸せであった。
しかし、そんな生活は長くは続かなかった。
しばしば体の不調を訴えていた母親であったが、生活費を稼ぐために働き続けて病院へ行こうとはしなかった。
例え病院へ行ったとしても保険制度が整備されていないフィリピンにおいて診療代を払う余裕は無かったのだろう。
心配するピナちゃんを他所に病に蝕まれながらも母は働き続けていたが、体は日増しに痩せ細り、ある朝、母は起き上がる事ができなくなった。
死期を悟ったのだろうか、母はもう長くない事をピナちゃんに伝えた。
幼いとはいえ、人の死を理解している年齢のピナちゃんは泣いた。
愛情を注いでくれた母がいなくなる悲しみ。一人ぼっちになってしまう恐怖は、幼いピナちゃんには相当なものだっただろう。
泣き続けるピナちゃんを見て、母は「ピナの笑ってる顔がみたい」と言った。
ピ「泣くのをやめたら元気になるの(´;ω;`)?」
ピ「どうすれば元気になるの(´;ω;`)?」
母「たまには美味しい物が食べたいね」
美味しい物を食べれば元気になるかもしれないと思い、ピナちゃんはお金を預かり母親の食べたがっている屋台へお使いに出かけた。
その屋台は母親と出かけた時に通る道にある屋台で、いつもピナちゃんが「食べたい食べたい」と駄々をこねていたが、お金がないのでいつも我慢していた屋台であった。
ピナちゃんは屋台で食べ物を一つだけ買い、急いで母親の元へ戻った。
ピ「ママ、買ってきたよ。食べて(´;ω;`)」
母「私はいらないから、ピナが食べて」
母は美味しい物が食べたいと言っていたが、自分ではなくピナちゃんに食べさせたかったのである。
「ママが食べて(´;ω;`)」と拒み続けたが、「ピナの食べている所が見たい」と言う母に負けて、食べ物を一口食べた。普段、質素な食事しかしていなかったピナちゃんは「美味しい(´;ω;`)」と、泣きながら笑っていた。
全部食べても良いと言われたが半分だけ食べて、残りをママの口に運んであげると、ママも「美味しい!」と喜んでいたらしい。
その数日後にママは亡くなってしまう。
幼かったピナちゃんはママと食べた食べ物が何だったのか忘れてしまっていたのだが、大珍樓で点心を食べた瞬間に思い出したのである。
ピ「ママの味がするデス(´;ω;`)」
点心を食べるピナちゃんを見ていると目頭が熱くなり、トイレへ逃げ込み私も泣いてしまった。
それからは時々ママの味を忘れないように点心を食べている。
育ての母が生きていれば貰うはずだった愛情も、これからは私が二人分注がないとな!と思った日であった。
ピナちゃんの幸せを願っていた母の願いを私が叶えるのである。
—2014/09/21 追記—
現在のピナちゃんの母は3人目なのか?というコメントを頂きましたので追記いたします。
育ての母親が亡くなった後で、再び生みの母親と同居する事となり現在に至ります。
追記終わり—
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