水と安全は無料と言われた日本だが、現代社会において空き巣・強盗・詐欺などの犯罪は増加傾向にあり、地域に住む住民自らが未然に犯罪を防ぐ為に防犯パトロールを行うのも珍しくない。
今日も日本の片隅で、私の所属する勇敢なパトロール隊が1件の事故を防ぎ会社を救ったのである。
そのパトロール隊は生活安全課への届出も行っていない非正規のパトロール隊である。
人知れず活動を続けるこのパトロール隊は「ピーナッツパトロール隊」と呼ばれ、隊長1名・隊員1名と小規模な部隊だが、過去にはフェンスに挟まった犬を救助するなど華々しい実績を誇っている。
本日も公文で勉学に励まれお疲れであるにもかかわらず、隊長自らお散歩を装い地域の治安を守るために、防犯強化地域に設定された兵舎から饅頭屋までの道のりを巡回していたのである。
隊長はある店の前を通りかかった時に、並みの人間では気が付かなかったであろう僅かな異変を察知した。
ここからは隊長と被害者の証言を交えて記事にしています。
ピーナッツパトロール隊の隊長であるピナちゃんは最近ある店の饅頭にはまっている。
食欲旺盛な隊員に連日奪われてしまうので、お目当ての饅頭を求めて饅頭屋に足しげく通っていた。
隊長は道すがら足元を流れる水に気が付き、ふと横に目をやると閉じられた店のシャッターの隙間から勢いよく水が溢れ出していたのである。
……アエイ(´・ω・`)? ※訳:これは何だろう。
店内から流れてくる水を不審に思ったピナちゃんは、隊員に異常を知らせようと電話をしてみたが、隊員は近頃パトロール隊の運営資金集めに奔走しているので電話に出れなかった。
シャッターをガチャガチャと揺らしたり、「スミマセーン( ・Д・)」と店内に呼びかけてみたりしたのだが応答が無いので、事態を重く見たピナちゃんは看板に書かれていた電話番号に電話する事を決意した。
※対面ではなく電話で日本人と話をするのはピザの注文をするのも、まだ緊張するのである。
プルルルルル ガチャ
電話には女性が出てお店の名前を名乗った。店は休みだが転送サービスを利用していたようである。
お「はい。○○○です。」
ピ「お世話になりマス。ピナ山デシケド。」※私の電話を真似てる。
お「はい?」
ピ「アノ・・お店から水が出てるデス(´・ω・`)」
お「はい?どういう事でしょうか?」
ピ「水がすごいデス。お店から出てるデス(´・ω・`)」
お「店の中から水が漏れてるという事ですか?」
ピ「ハイ。ソデス(´・ω・`)スグイ」
お「ええ!!すぐに行きます。」
その後、律儀にピナちゃんはお店の女性が来るのを待っていた。
10分も経たないうちにお店のおば様が現れたので、シャッターを開き店内を確認すると洪水被害にあったかの様な光景であった。
どうしてこの様な事になってしまったのだろうかと、現場の凄惨な状況にパニック気味のおば様に連れられ、何故かピナ隊長も水漏れの発生源を探しに店内へと潜入したのである。
その頃、仕事に一段落ついた私は、ピナちゃんからの着信に気が付き電話を折り返した。
私「ピナちゃん、どうしたの?」
ピ「オバちゃんがクマッテマス。今ヘルプしてマス(´・ω・`)」
私「ん…?おばちゃんとお話はできる?」
ピ「ハイ!チョト待ってくだサイ( ・Д・)」
((私の旦那さんデス。)) ((あっそうなの?))
お「もしもしお電話変わりました。○○と申します。お宅の奥様がお店の水漏れを見つけてくれまして、今一緒にお掃除をしてくれてるんですよ。でも水浸しでどうしたらいいんでしょうか(’A`|||)」
最初は何の事か分からなかったが興奮気味に喋るおば様の話を聞いていると、水道のパイプ付近から水が溢れ出しているが元栓を閉めたら水は止まった。という事が理解できた。
私「失礼ですが、経営者の方ですか?」
お「はい。そうです。」
私「何か保険に入っていますか?」
お「はい。」
私「それなら保険屋に被害状況を見せる為に写真を撮っておいて下さい。」
お「でも、今カメラを持ってないんです。」
私「場所はどちらになりますか?カメラも持っていますし私も向かいますので。」
こうして場所を聞き出し現場へ向かったのだが、そこには裸足になり元気良くデッキブラシで水を店外に掻き出しているピナちゃんがいた……
現場の写真撮るって言ったのに……
おば様とピナちゃんにより復旧作業は進んでいたが、それでも店内の至る所に水が溜まり、ピナちゃんが気が付かなければ定休日なので、この惨状は明日まで誰も知ることは無かった。
長時間水が流れ続け床に水が溜まれば、漏電や床の張替え等の問題も出てくるので大手柄である。
水を掻き出すおば様
水道を調べてみるとパッキンの捻じれと配管の緩みが確認できた。
配管工事の仕事をしている友人を手配して怪しい箇所の部品を取り替え、後は店内を乾かすだけという状態になったので、我々ピーナッツパトロール隊は撤収を考えていた所。
ピ「エラナイ!!エラナイデス!!( ・Д・)」訳:いりません。
お「そう言わないで。もらって下さい。」
おば様が手伝ってくれた御礼にとピナちゃんにお金を渡そうとしていた。
頑なにお金を貰う事を拒むピナちゃんは日頃から「日本のお礼文化はお金以外を渡すのがスマートだ」と教えているのが浸透しているのだろう。
それでもおば様は「クリーニング代だから」と何とか受け取ってもらおうとしている。
確かにピナちゃんが公文へ着て行くお気に入りの服は、膝から下はビッショリと濡れており有りがたく頂いても良かったのだが、どっちにしても帰れば洗濯するので「お金ではなく何かお菓子でもあげてください」とお願いして、ピーナッツパトロール隊は近所の惣菜屋でコロッケを買ってもらい、この日の活動を終了したのである。
おば様から「助かりました。ありがとうございます」と何度もお礼を言われて、ピナちゃんは照れくさそうであったが、コロッケを買ってもらいご満悦であった。
縁もゆかりも無いお店を懸命に掃除をするピナちゃんを見て、他人の為に見返りも求めずここまで一生懸命頑張れるものかと、ピナちゃんの人柄を尊敬すると共に、この助け合いの精神がフィリピーナか……と、フィリピン人の気質を垣間見れた気がした日であった。
良さそうなビルが売りに出ていたので、昨日は朝から銀行の担当Nさんを呼んで30年後までの予測を見せながら、物件の調査依頼と金利の交渉を行っていた。交渉も佳境を迎えようとしていた時に、電話の着信があった。ピナちゃんである。[…]