私達が住むボロビルを改装して作った賃貸併用住宅「ピナ山ヒルズ」のリフォームをしていた頃、リフォームの現場監督として通っていたピナちゃんが、ある日を境に盛りだくさんの食べ物をかばんに入れて現場へ持っていくようになった。
お腹が空くと元気のなくなるピナちゃんは、非常食としていつもかばんに食べ物を携帯しているのだけど、おやつとして食べるには多すぎるし、リフォームを手伝ってくれていた友人達への差し入れは別に用意をしていたので、何のための食べ物だろうかと不思議に思っていた。
しかもその食べ物は無くなる日もあれば、そのまま持ち帰りお菓子ボックスへと戻される日もあって、不可解な行動に謎は深まるばかりであった。
不思議に思うなら直接聞けば良いのだが、どうもピナちゃんはコソコソと私の目を盗んで食べ物を集めているようで、私がいると食べ物の収集を行うことはなく秘密にしたいようなのである。
しかしピナちゃんは詰めが甘い。
私が後で食べようとしていたドーナツが忽然と姿を消し夜にはまた現れるという現象や、共有のお菓子ボックス内に保管されている品物が不審な増減を繰り返したり、不自然なほど膨らんだカバンにより、ピナちゃんのお菓子を持ち出す犯行は私の知るところとなる。
何て面白い行動をとるフィリピーナなのだろうか。
本人が秘密にしたいのなら無理に詮索するのも野暮なので、持って行かれると悲しい焼きプリンなどの好物は「後で焼きプリン食べようかなー」と大きな独り言を呟き、私がその存在を認識していると働きかけ脅威から保護していた。
ピナちゃんによるお菓子の持ち出しは続いたが、リフォーム現場からの帰り道にピナちゃんの犯行動機が明るみに出されることになった。
立体駐車場に設置されている休憩スペースのベンチに腰掛け休んでいる人影を見つけると、「お婆ちゃーん(*´Д`*)」と声をかけてピナちゃんはお婆さんの下へ駆け寄った。
ピナちゃんの知り合いだろうかと私も近寄ると、年配の女性に対して失礼な表現であるが、ボサボサの髪をした服も少し汚れているホームレスのお婆さんだった。
ピナちゃんは「私の夫デス(・∀・)」と私をお婆さんに紹介すると、かばんから食べ物を取り出し「これ今日も余ったから、良かったら食ビテクダサイ(・∀・)」とお婆さんにごっそりと手渡すと「いつもありがとうございます」とお礼を言われていた。
なるほど!食べ物を持って出る理由はこれか!と日頃の不可解な行動の理由が判明したのである。
しかしお婆さんに渡した食べ物は喉が渇きそうな物ばかりだったので、「喉が渇いたから少し休憩して帰ろう」とピナちゃんに500円玉を手渡すと、察したピナちゃんは自動販売機へと走った。
お婆さんと二人きりになると「素敵なお嬢さんですね、いつも食べ物を持ってきてくれるんです」と仰られたので、「そうなんですか?」とすっとぼけて「よかったら何か食べに行きませんか?」と誘ってみたけれど、「いえいえこれだけで十分です」と遠慮されているようだった。
ピナちゃんが種類の違う飲み物を3本抱えて舞い戻ってくると「お婆ちゃんどれかいいデスカ(・∀・)?」と選んでもらい、この饅頭が一番好きだとか話をしていたので、私は少し離れた場所に設置された灰皿の前で、煙草を吸いながら二人のやりとりを見ていると、ほくほく顔のピナちゃんが「帰りマショ(´∀`*)」と言ってきた。
「一緒にお茶を飲んで帰らないの?」と聞くと、「一緒だと食べるの恥ずかしいかもシレマセン(´・ω・`)」とお婆さんの気持ちを汲んでいるようだった。
ピナちゃんはお婆さんの出没する場所を数か所知っているようで、ホームレスのお婆さんとピナちゃんの交流はしばらく続いていたのだが、ピナ山ヒルズのリフォームが終わり数ヶ月が経過した頃、いつの間にかお婆さんの姿を見かけなくなったとピナちゃんが言っていた。
支援団体が保護をしてくれたのかもしれないと伝えたが、不思議なことにお婆さんからはホームレス特有の臭いもなく、痴呆で徘徊している可能性も考えたけれど、受け答えはしっかりとされていたので痴呆は考えられない不思議なお婆さんであった。
今日お婆さんと会った立体駐車場の前を通った時に、ピナちゃんがキョロキョロとお婆さんを探しているようだったので、またいつか会えるのかなあと思うのである。
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