私が家にいる時、ピナちゃんは家事の合間を縫ってまとわりついてくる。
隣の部屋へ何か取りに行くときも、体にしがみ付いて離れないので一緒に運ぶ事になるのである。
昨夜も筋トレを終えた私は汗を流そうと風呂へ向かっていたのだが、トレーニングルームの外で待ち構えていたピナちゃんに捕獲され、風呂まで運ぶ事を余儀なくされた。
私の胴体に手を回し捕まろうとしてくるのだが、私は服を着ていなかったのと汗で滑り上手くしがみ付けないピナちゃんは、「オイオイオイ( ・Д・)(訳:しっかり抱えて)」と催促してくるのだが、トレーニング後という事もあり、私の大胸筋・上腕二頭筋は共に疲弊しており、ピナちゃんを抱きかかえる力は残されていなかったのである。
仕方がないので背中におぶって行こうと、やや前傾姿勢で腰を落としピナちゃんが乗りやすい体勢で待っていたが、何故だか中々乗ってこない。
しつこいようだが筋トレ後なので下腿三頭筋・大腿四頭筋も疲弊しており、中腰を維持しておくのも辛いのである。
私「ピナちゃん行くよ!ホレホレ」プルプル(※足の震える音)
ピ「……(‘A`)」
私「乗らないの?」
ピ「乗るデス(*´Д`*)」
私「どうぞ!」プルプル
プルプル……プルプル……プルプル……
私「何で乗らないの(笑)」
ピ「どうやって乗るデスカ(´・ω・`)?」
!?
私「いや、飛び乗ってくれれば大丈夫だよ。どうぞ!」
ピ「・・・・(‘A`)アイ・・アイ・・」
中腰のままピナちゃんの足元を見ると、数cmほど飛んでみたり爪先立ちになってみたりと、乗り方が分からず躊躇い迷っている様子であった。
私「もしかして、おんぶされた事ないの?」
ピ「ハイ。初めてデス(´・ω・`)」
ピナちゃんの父親は妊娠が分かるとすぐに行方をくらましたので、幼少期におんぶをされる機会が無かったのかもしれないが、叔父さんや年齢が父親に近い親戚であったり友人と遊ぶ中で「おんぶ」という行為は避けては通れぬ道なのではないか?
私「叔父さんにも、おんぶされた事ないの?」
ピ「ハイ。無いデス(´・ω・`)」
私「友達と遊ぶ時も?」
ピ「ハイ(´・ω・`)」
私「何で?フィリピンには「おんぶ」する文化がないの?」
ピ「ありますけどフィリピンは親戚でもレイプがあるから、ママが駄目だって(´・ω・`)」(※あくまでもピナちゃんの考えです。)
私「そ・・そうなんだ。」
中々衝撃的な理由を聞かされ、いつも元気なので共に生活をしていてもピナちゃんの生い立ちを忘れがちになるが、ピナちゃんは過酷な幼少期を送ってきたのを思い知らされる事がある。
私「よし!じゃあ初めてのおんぶにトライしてみよう!」
ピ「ハイ(*´Д`*)」
ピ「・・・・(‘A`)アイ・・アイ・・」
初めてでも簡単にできるような気がするのだが、何で出来ないのだろう?
ピナちゃんは小心者なので飛び乗るという行為が怖いのかもしれない。ただ前方や横からはいつも飛びついてくるので後方限定で怖いのだと分析した。
私は片ひざを着き先ほどよりも低い体勢となり、ピナちゃんが飛ばなくてもよい状態になった。
私「はい、ここに腕を回して・・足は前にね・・・」
正しい背負われ方をレクチャーし、足の痛みを堪えて立ち上がり前傾になると……
何か違う!
おんぶとは背負われる者は背負う者に体を預けるものだが、前傾姿勢になったのを倒れると思ったのか、後ろに仰け反りバランスを取ろうとしてくるのである。
(((( ;゚д゚)))イィィィィ
体の正面でがっちりとクラッチされた両手が、仰け反ることで私の首に食い込んでくるのである。
頚動脈を極めにくるピナちゃんから逃れるために直立の姿勢になると、またしてもバランスを取ろうと暴れながらも距離を詰めスリーパーホールドのような形で私の首を極めにくるピナちゃん。
このフィリピーナできる!
全盛期のノゲイラ(柔術マジシャンと呼ばれた総合格闘家)を彷彿とさせる締め技に圧倒されながらも、無事に風呂場まで運ぶ事に成功し、ピナちゃんの初めてのおんぶ体験は終了した。
まさかおんぶが出来ないとは夢にも思わず最初は冗談かと思ったが、いつも驚きを与えてくれるピナちゃんとの生活は楽しいものである。