この記事は家庭の味が生まれる理由の続きです。
ピナ山家に伝わる秘伝の料理“からしサンドイッチ”を継承するため、祖母の家へ向かう途中にあるスーパーマーケットへ寄った。
これまで謎のベールに包まれていたサンドイッチに使う材料を聞き、食材を調達する為である。
あのサンドイッチの美味しさは何か特別な隠し味があるに違いないと思っていたが、祖母から伝えられたのはトマトやレタス、卵などの一般的なサンドイッチの材料だった。
ただし繰り返し注意して買うように言われたのが「レタスとキャベツを間違えるな」という事である。
小学生の頃の私は野菜に興味がなく今ほど優れた目利きができなかった為に、お使いに行かされた時に2回に1回の割合でレタスとキャベツを間違えて買っていたのを祖母は未だに引きずっているのである。
「今はもう分かる」と説明したが、それでも心配な祖母は買い物中に2回も電話をしてきて、最後にはピナちゃんに説明していたので私への信頼は皆無なことが分かった(涙)
買出しを終えて祖母の家へ着き、恒例のピナちゃんによる”まとわりつき”を済ませると、祖母とピナちゃんは二人仲良くキッチンで下準備を始めたので、私も何か手伝えることはないかと二人の傍らに立ち存在をアピールしていると、祖母から「そこにいると邪魔になるから新聞でも読んでなさい」と言われ、疎外感に包まれながらも「俺が料理長だから下準備は免除された」と思い込むことで、何とか自尊心を保ちながら新聞を読むふりをして二人の仲睦まじい様子を眺めていた。
料理長である私に見守られながら弟子二人によるサンドイッチ作りは順調に進んでいたが、弟子の一人であるピナちゃんの様子がおかしくなり、その表情からは必死に笑いを堪えている事が伺えた。
耳をすまして二人の会話を聞いてみると、祖母による”入れ歯トーク”が原因であった。
数日前の食事中に祖父の入れ歯がはずれたトラブルを話しているのだが、ピナちゃんは祖父の失態を笑ってはいけないと思って必死で耐えているが、おちょぼ口になり全く耐え切れていないのである(笑)
祖母からの奇襲に耐えながらも着々と作業は進み、その後サンドイッチの味を大きく左右する”カラシの量”を決める工程へと移った。
そしてこの時に初めて知った事だが、サンドイッチに塗られていたのは純度100%のカラシではなく、カラシとマヨネーズを和えたカラシマヨネーズであった。
ば「太郎に味見をしてもらおうね(´∀`*)」
ピ「ハイ(*´Д`*)」
ようやく料理長を頼ってきたか・・といった気持ちだが、このカラシサンドイッチは家族で私しか食べないので当然なのである。
ペロリ・・・
私「まだまだカラシが足りないね」
ペロリ・・・
私「もっとだ、ピナちゃんもっとカラシを足して!」
ピ「ダ・・ダイジョブデスカ(゚д゚;)」
ペロリ・・・
もっとー(゚Д゚)!!
アイΣ(゚д゚;)!?
もっとー(゚Д゚)!!
(((( ;゚д゚)))アーイ!!
うん。いいんじゃないかな(`・ω・´)
こうしてピリリと鼻を抜ける秘伝のカラシが完成し全ての下ごしらえを終えたのだが、このカラシの量はピナちゃんには辛すぎるのでピナちゃん用にカラシの入っていないサンドイッチも作るように言ったが、「辛さを覚えマス(`・ω・´)」と無茶な事を言い始めて、全て私仕様のカラシサンドイッチが作られたのである。
できあがったカラシサンドイッチを口へ運ぶと、幼い頃の思い出が頭を過ぎるほど当時の味が完璧に再現されているが、ピナちゃんが心配である。
おでんを食べる時も、(それ付けないのと変わらないんじゃ・・)と思うほどの微量のカラシしか付けないピナちゃんには荷が重過ぎる気がするのだ。
ば「無理したらダメだよ(´・ω・`)」(心配)
ピ「ダイジョブデス(`・ω・´)」
パクリ
・・・・・・
(|| ゚Д゚)カハッ:∴
全然大丈夫じゃない(涙)
「新しいのを作ってあげる(汗)」と言う祖母に「太郎に作ってあげるデス(´;ω;`)」と、フィリピーナの味覚には相当厳しかった思うが、何とか辛さを覚えようと泣きながら二つ平らげたので、((一つも食べる事のできなかった兄貴よりも根性があるな))と感心しながら、大量に作られたカラシサンドイッチを一人で食べきった。
あれから2回ほど食卓にからしサンドイッチが登場し、家庭の味はフィリピン人妻ピナちゃんへ見事に継承されているが、伝承者であるピナちゃんはカラシ抜きの軟弱サンドイッチを食べているのである。