まるで実感がわかなかったけれど、日に日に社長がしてくれた事や教えてくれた事、一緒に遊んだ事を思い浮かべるようになり、何もする気が起きなくなってしまった。
社長、社長と書いているが、私は社長の会社で働いているわけでも資本関係があるわけでもない。
不動産投資をしたいと思った時に、ただ取引先の近くにあったからという理由で訪ねた会社が社長の会社であった。
全くの初対面だったが厚かましくも不動産投資について色々と教えてもらい、私の中身のない投資プランが心配になったのか早まって物件を買わないように忠告してくれたり、プライベートでも食事やゴルフに連れて行ってくれたりと良くしてもらい、金も学歴も知識も無かった私が食べるものに困る事なく生活できているのは社長のお陰だと言っても過言ではない。
私は社長のように賢くはないので、教えてもらった事を守り実践するうちに何となく社長の言っている事が理解できるようになっていった。
だけど調子に乗りやすい私は度々失敗する事もあり、その度に社長は怒りながらも助け舟を出してくれた。
気が付けば社長とは家族ぐるみの付き合いとなり自宅へ招かれることも増えて、ある日奥様から主人は息子ができたみたいで喜んでいると聞かされ何だか嬉しくなったりもした。
社長は私によくご馳走をしてくれたし色々な物をくれた。
外食だけではなくて奥様の留守中にお邪魔した時には社長自ら料理を振舞ってくれた。
たまにはお前が作れと言われて私の手料理を振舞うともう作れとは言われなくなったが、ピナちゃんと結婚する前は毎週のようにご馳走になっていた。
車を持っていなかった私に「好きな車は何だ?」と聞いてきたので「軽トラックが好きです」と伝えると、「軽トラは乗り心地が悪いからこれに乗れ」と勝手にお古の車を持ってきて、何で好きな車を聞いたのだろうかと困惑したし、しかもそれを売りつけてきたので結局社長のお古を買い取っただけじゃないのか・・・?と嵌められた気持ちもあったが、数年後に購入した価格で買い取ってくれて、また次のお古の車を買わされる変なサイクルができたが、私がお金を使わなくて済むように考えてくれた社長の優しさなのだと思う。
最近でもピナちゃんが体調を崩して事務所を自宅ビルに移転した時も、急いでいたので元々使っていた机や椅子は全て処分していて、記事冒頭にある画像の作業台に使う合板を使ったみすぼらしいテーブルで仕事をしていた私を不憫に思ったのか、翌日会社の方と一緒に社長室にあった応接セットを丸ごと持ってきてくれて、コンクリ丸出しの私のオフィスには不相応な立派な応接セットが設置されたし、トイレにはいつも最新のゴルフダイジェスト(雑誌)を納品してくれていた。
ゴルフクラブも最初から明らかに社長が使うにはシャフトが硬すぎるクラブを買って、俺には合わなかったからとそれをくれたり、サイズの大きなゴルフシューズをブカブカだからお前が履けよと、そんなの買う時に分かるじゃないかと思う物まで、素直にプレゼントをするのが照れ臭いからなのか、自分には合わなかったからという理由でプレゼントしてくれた。
時には賭けゴルフで私から大金を毟り取る事もあったけれど、そんな時は誕生日が近いからとか、お前の車に金を忘れたから奥さんと飯でも食いに行けよとか、何だかんだ理由をつけてはお金を返してくれて、社長に渡そうとしても頑として受け取らなかった。
後悔と言えば社長の助けもあり独立して数年で会社も安定してきて、恩返しがしたいと思った私は社長に食事をご馳走しようとしたが「太郎が一人前になったらな」と断られ、それから毎年のようにアプローチをしていたが断られ続けて、癌が再発し再入院する少し前にようやく「退院したら美味いものをご馳走してくれよ」と言ってもらえて楽しみにしていたのに、結局ご馳走する事ができなかったのが心残りである。
出会った当時の浅い知識しかなかった私を、一部の不動産投資セミナーの背後にいる不動産屋や投資家のように素人を丸め込んで儲ける事もできたのに、反対に私が失敗しないように色々と教えてくれた社長には感謝してもしきれない。
ここ1年こんな事があり人生で最も神経をすり減らし苦悩した期間で、これまで何か問題があっても冷静に向き合い対処できると自分では思っていましたが、いざとなると悩んだり落ち込んだりして、こんなにも何も手に付かない事があるのかと知りました。
また皆様に良く見られたいと思う下心からか、前回の記事では懸命に祖父母や社長を思いやる内容ばかり書いてしまいましたが、実際には自分の予定が組めないストレスや中々好転しない状況に苛立ったり焦燥感に駆られる事もあり、妻や家族に当たる事はありませんでしたが、些細な事で友人に突っかかってしまったりと人として未熟な面も垣間見る事になりました。
コメントにもありましたように一人で抱え込まず、もう少し誰かに頼る気持ちがあれば、もっと上手くやれたのではないかと思います。社長の事を考えると、もっとこうしておけば良かったと未だに悔やむ気持ちもありますが、いつまでもグチグチと悩んで社長に軟弱野郎と笑われないように周りの大切な人達に心を配ろうと思います。