フィリピンのスラム街で不動産投資

私の信頼するピナちゃんの叔父さんは勤勉な努力家で裸一貫の何もない所から、現在はサリサリストア(簡易コンビニ)やトライシクル(三輪タクシー)を数台所有するまでになった。

ピナちゃんファミリーの稼ぎ頭として日々親族からのヘルプ要請があり、家族だけではなく一族全てを気にかけながらも意欲を失うことなく、勤労意欲のない親族という手枷足枷のある状態で、まだ小規模ではあるが順調に事業を発展させているのは目を見張るものがある。

 

その叔父さんの体に異変が起きた。

長年の無理がたたったのか、腰を痛めて思うように仕事ができなくなったのである。

叔父さん負傷の一報は瞬く間にピナちゃんファミリーへ広がり、定職へついていなかった親族の一部も一念発起し、これまでお世話になった叔父さんを助けるため仕事を始めた者もいるようだが、仕事を始めたばかりの若者が高給を取れるわけもなく自身の事が精いっぱいで、他の親族を助ける余裕はなかった。

 

実の所、叔父さんの腰は突然痛くなったわけではなく数ヵ月前からその兆候があり、現在も好調な時のようには働けないが腰をかばいながら仕事はしている。

しかし今後腰の状態がさらに悪化し動けなくなった時の事を考えると、大黒柱の叔父さんはファミリーの行く末に危機感を持ち、各家庭に少しでも自立する意識を持ってもらおうと多少大げさに伝えている。

私達は叔父さんとスカイプで上記の話をしている時に、腰が良くなるまでは私が何とかするのでゆっくりと療養するように伝えたが、ピナちゃんと私にも日本での生活があるからフィリピンの事は気にするなと男前な事を言うのである(涙)

 

頭が良く優しい叔父さんはこんな状況になっても私達やフィリピンのファミリーを気にかけていて、何とかお金を作ろうと考えているようだったが、これまでのように先頭に立って働くことは現実的に難しくなっているので、ビジネスを親族の誰かに任せるべきか悩んでいた。

私達はその事についてどう思うか聞かれたが、私が会ったりスカイプで話をした一部の親族に限れば、人を雇った経験がない私から見ても残念ながら叔父さんの変わりができる者はいないように感じていた。

 

唯一叔父さんの息子であるバブイ君からは事業を継続・発展させる可能性を感じるが、まだ学生で若すぎるため引き継ぐには早すぎるのである。

そうは言っても叔父さんの腰の痛みがひどい日にトライシクルを一台寝かせておくのも勿体ないので、叔父さんは兄弟の一人に任せてみたが、叔父さんが仕切っていた頃に比べて売り上げは減少していた。

 

叔父さんとは月に一度お互いの近況報告も兼ねて連絡を取り合っているが、近頃は話をする度に仕事の相談になっていたので、「何か良い方法はないものか」と頭を悩ませていたが、少し前にフィリピンで動きがあったのである。

叔父さんがお金を貸していた知人が返済不能となり、借金を帳消しにする代わりに知人が所有していた家をもらったとの事だった。

私やピナちゃんから不動産投資について話は聞いていたので、手作りの看板で入居者を募集したところ、あっという間に入居者が決まってしまい叔父さんは不動産投資家デビューを果たした(驚)

 

不動産投資に可能性を感じた叔父さんは他の物件を買い進めると言いはじめ、購入する時の注意点やコツを教えてほしいと相談をしてきて、日本とは勝手が違うので有益な情報になるかは分からないと伝えたうえで、心構えや利回りとリスクの考え方等の基本的な事から日本での客付け方法などの勉強会を開催していた。

しかし日本では大問題となる雨漏りやクラックもスラム街では普通の事だし、入居審査も麻薬中毒者や犯罪者が多い地域でそれを見極めるのは直感頼りで、築年数や構造も全く当てにならずいつ倒壊しても不思議ではないという、日本の常識は一切通用しないスラム街での不動産投資において、私のアドバイスは全く役に立っていないように思うのである(汗)

 

その一週間後に叔父さんから連絡があり、借金の担保としてもらった家とは違う2階建ての戸建て?物件を購入した事が判明し、初の不動産投資だというのにあまりの仕事の早さに度肝を抜かれた。

購入金額は日本円で13万円だと聞き、周辺相場を知らないので安いのか高いのか判断がつかないが、日本でいう所の東京のはずれのような場所なので格安な気がするのである。

1階と2階をそれぞれ二つに分けて四組の家族に貸し出す予定で、すでに1階の二部屋は入居者が決まってリフォーム中だが住んでいると聞かされ、物件選定・購入・客付けを一週間で行う叔父さんの経営手腕に舌を巻いた。

 

これだけでも日本で甘っちょろい不動産投資しかしていない私にとっては衝撃的であったが、スラム街の不動産投資の奥深さはこれだけではなかった。

何とこの地域の不動産売買では登記簿や権利書が存在しないのである(衝撃)

これは売主と所有者が一致していない可能性もあり、後々面倒なトラブルになる可能性の高い危険な状態なのだが、それが普通で当然のように売買が成り立っていた。

 

叔父さんから私の知らない不動産投資の世界を教えていただき、日本の整備されたルールの中で売買が行える環境のありがたみが分かった。

アジアの不動産市場は日本の不動産バブルの時のように毎年値上がりしていて、数年前に日本でも脚光を浴び、日本の不動産投資家は中国を始めとしてマレーシア・インドネシア・フィリピンの不動産を購入し、一部の現地に強力なコネクションを持っていたり頭の良い投資家を除き、多くの海外不動産に夢を見た投資家は撤退した(涙)

 

それもそのはずで購入時に成功の9割が決まる不動産投資において、日本人の大半は購入した時点で割高な価格を掴まされるので、日本人が勝手のしらない海外不動産投資で利益を上げるのは困難である。

しかしこれがフィリピン人の叔父さんの場合は話は別で現地価格で購入することができる。

さらにスラム街という地域柄、様々なリスクはあるものの物件価格は高騰しないが強い需要があるエリアなので、上手く規模を拡大していけば数年後にはマカティのような高級住宅街に進出しているのではないかと、叔父さんを見ていて思うのである。

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